大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)1047号 判決 1985年7月19日
原告
川本こと許文吉
被告
商都交通株式会社
主文
一 被告は原告に対し、金一九四万五〇二四円及びこれに対する昭和六〇年二月二一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告に対し、金六〇六万五三〇〇円及びこれに対する昭和六〇年二月二一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行の宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生
(一) 日時 昭和五八年一〇月二二日午後七時三〇分頃
(二) 場所 大阪市生野区小路東四丁目一一番一号先交差点(以下「本件交差点」という。)
(三) 加害車 普通乗用車(大阪五五え三三二三号、以下「被告車」という。)
右運転者 松田嘉明(以下「松田」という。)
(四) 被害者 原告
(五) 態様 被告車が、対面進行してきた原告運転の足踏自転車(以下「原告自転車」という。)の側面に衝突したもの
2 責任原因
(一) 運行供用者責任(自賠法三条)
被告は、被告車を所有し、業務用に使用し、自己のために運行の用に供していた。
(二) 使用者責任(民法七一五条一項)
被告は、松田を雇用し、同人が被告の業務の執行として加害車を運転中、前側方不注視、ハンドル、ブレーキ操作不適当の過失により本件事故を発生させた。
3 損害
(一) 受傷、治療経過等
原告は、本件事故により、左胸部、左拇指及び右下肢打撲の傷害を負い、入院(二週間)及び通院(一一か月間)治療を受けたが、自賠法施行令二条別表等級一二級相当の後遺症状が固定した。
(二) 治療関係費
(1) 治療費 三万二三〇〇円
(2) 診断書 三〇〇〇円
(3) 入通院雑費等 二〇万円
(三) 逸失利益
(1) 休業損害
原告は、本件事故当時、一か月当り五〇万円の収入を得ていたが、本件事故により、入院期間中(二週間)は一〇〇パーセント分、通院期間中の七か月間は三〇パーセント分の収入(左記算式のとおり合計一三〇万円となる。)を逸失した。
(算式)
入院中
五〇万÷二=二五万
通院中
五〇万×〇・三×七=一〇五万
(2) 後遺障害に基づく逸失利益
原告は、前記後遺障害のため、四年間にわたりその労働能力を一四パーセント喪失したものと考えられるから、原告の後遺障害に基づく逸失利益は、三三六万円となる。
(四) 慰藉料
入院分 一五万円
通院分 八八万円
後遺症分 一八八万円
(五) 弁護士費用 五〇万円
4 損害の填補
原告は既に二二四万円の支払を受けた。
5 よつて、原告は被告に対し、損害賠償金六〇六万五三〇〇円及びこれに対する本件不法行為の日の後の日である昭和六〇年二月二一日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する被告の認否
1 請求原因1は認める。
2 同2(一)の事実及び(二)の内松田の過失を除く事実は認めるが、責任は争う。
3 同3は不知もしくは争う。
4 同4は認める。
5 同5は争う。
三 被告の主張
1 免責
本件事故は原告の一方的過失によつて発生したものであり、被告及び被告車運転者松田には何ら過失がなかつた。かつ被告車には構造上の欠陥または機能の障害がなかつたから、被告には損害賠償責任がない。
すなわち、原告は雨傘をさしながら片手ハンドルで原告自転車を運転して、前方を注視することなく突然被告車進路前方に進入してきたものであり、松田は、原告を発見して直ちに急制動の措置を講じたが及ばず衝突したものである。
2 過失相殺
仮りに免責の主張が認められないとしても、本件事故の発生については原告にも前記のとおりの過失があるから、損害賠償額の算定にあたり過失相殺されるべきである。
四 被告の主張に対する原告の答弁
被告の主張はいずれも争う。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 事故の発生
請求原因1の事実は、当事者間に争いがない(事故の態様の詳細については後記二2(一)で認定のとおりである。)。
二 責任原因(運行供用者責任)
1 請求原因2(一)の事実は、当事者間に争いがない。従つて、被告は、自賠法三条により、免責の主張が認められない限り、本件事故による原告の損害を賠償する責任がある。
2 そこで、被告の免責の主張につき判断する。
(一) 成立に争いのない乙第一号証、証人松田嘉明の証言及び原告本人尋問の結果(いずれも後記採用しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
本件交差点は、東西に通じる両側の路側帯を含む車道幅員六・二メートルないし六・四メートルの道路(以下「甲道路」という。)、南北に通じる車道幅員五・五メートルの道路(以下「乙道路」という。)と北西及び南東に通じる幅員四・九メートル(内南西側一・〇メートルは路側帯)の道路(以下「丙道路」という。)が交差している。本件交差点南側の乙道路と丙道路の間には薬局店舗があり、甲道路を東進してくる車両運転者にとつて右前方の、丙道路を北西方向に進行してくる車両運転者にとつて左前方の見通しはいずれも不良である。本件事故当時は小雨が降つていたが、松田は被告車を運転し、甲道路を東進走行してきて本件交差点に進入し、南東方の乙道路に向かつて時速約一〇キロメートルで右折し始めたところ、前方約三・八メートルの地点をほぼ東から西に向かい被告車進路前方を横切ろうとしている原告自転車を認めたので、その後、制動の措置を講じたが、及ばず、約二・八メートル前進した地点で被告車右前フエンダー角を原告自転車前部に取付けられたカゴ右側部分に衝突させ、原告及び原告自転車をはねとばして転倒させ、さらにひきずるなどして、約四・九メートル前進して停止した。他方、原告は、原告自転車に乗車して、右手で傘をさしながら左手でハンドルを握り、丙道路右側を本件交差点に向かつて時速約一〇キロメートルで走行してきたが、被告車が右折してこようとするのを認め、乙道路左側(西側)に進行しているところ、前記のとおり衝突したものである。
証人松田嘉明の証言中及び原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は、いずれも前掲各証拠に照らし採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
(二) 右認定によれば、被告は、被告車を運転して前記状況の本件交差点を右折するに当り、徐行のうえ、前方を十分注視しながら進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然時速約一〇キロメートルのまま、前方を十分注視しないで右折進行し、原告自転車の発見と同時に的確な回避措置を講じることを怠つた過失があると認められるから、被告の免責の主張はその余について判断するまでもなく理由がない。
三 損害
1 受傷、治療経過等
いずれも成立に争いのない甲第二号証、第六号証、第七号証の三、六、九及び一一、原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故により、左胸部、左拇指及び右下肢打撲の傷害を負い、昭和五八年一〇月二二日から同年一一月四日まで新生野優生病院に入院し、同月一四日から昭和五九年二月二三日まで富永整骨院に、同月二四日から同年九月一〇日まで新生野優生病院に、同月一一日から昭和六〇年三月二九日まで新大阪病院に各通院し、治療を受けたが、その間の昭和五九年五月一〇日ころに左胸部及び左膝部圧痛等の後遺症状が固定し、自賠責保険手続上自賠法施行令二条別表等級一二級該当と認定されたことが認められる。
2 治療関係費
(一) 治療費
成立に争いのない甲第三号証の一によれば、原告は、富永整骨院での治療に要した費用三万二三〇〇円を支払つたことが認められる。
(二) 診断書料
成立に争いのない甲第三号証の二によれば、原告は、後遺障害診断書作成料として三〇〇〇円を要したことが認められる。
(三) 入院雑費等
原告が一四日間入院したことは、前記のとおりであり、右入院期間中一日一一〇〇円の割合による合計一万五四〇〇円の入院雑費を要したことは、経験則上これを認めることができる。
原告本人尋問の結果及び経験則によれば、原告は前記入院期間中七日間付添看護を要し、その間一日三五〇〇円の割合による合計二万四五〇〇円の損害を被つたことが認められる。
原告が、入通院雑費等として請求する金額の内右認容額を超える分については、本件事故と相当因果関係がないと認める。
3 逸失利益
(一) 休業損害
原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第四号証の一ないし四及び第五号証の一ないし五、同尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
原告は、本件事故当時、四二歳で、空圧金属部品の製造業を自営しており、製造用機械七台を備え、一週間に一、二日原告の妻が手伝いをする他、全ての作業、営業活動は原告一人が行なつており、本件事故前六か月間の売上げ額は少なくとも五八九万七九六一円、すなわち一か月当り九八万二九九三円(端数切り捨て、以下同じ)であつたが、他方、原材料及び外注の加工賃等の経費が本件事故前六か月間に少なくとも二五三万八三五六円、すなわち一か月当り四二万三〇五九円であり、その他電気代、燃料代、機械類の償却費等の経費を要するものであり、妻の労働の寄与分も控除すると、原告の本件事故時の実収入額は同年齢の男子平均賃金(昭和五八年賃金センサス産業計、企業規模計、学歴計男子四〇歳ないし四四歳の平均年収は四八三万七七〇〇円、すなわち一か月当り四〇万三一四一円である。)と同額程度であつたと推認されるところ、原告は、本件事故後、一か月当りの売上げ額が四六万八六九一円に減少したが、前記受傷の程度、治療状況等の諸事情を考え合わせば、前記認定の実収入に対し、入院期間(一四日)中は一〇〇パーセント分、退院後後遺症状固定の日までの通院期間(一八八日)中は三五パーセント分の減収が、本件事故と相当因果関係のある休業損害であると認められ、左記の算式のとおり、一〇七万二三五五円となる。
(算式)
四〇万三一四一÷三〇×(一四+一八八×〇・三五)=一〇七万二三五五
(二) 後遺障害に基づく逸失利益
前記認定の受傷及び後遺障害の部位程度によれば、原告は前記後遺障害のため、後遺症状の固定した後少なくとも四年間、その労働能力を一四パーセント喪失するものと認められるから、原告の後遺障害に基づく逸失利益を年別のホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、左記算式のとおり二四一万四〇二一円となる。
(算式)
四八三万七七〇〇×〇・一四×三・五六四三=二四一万四〇二一
4 慰藉料
本件事故の態様、原告の傷害の部位、程度、治療の経過、後遺障害の内容程度その他諸般の事情を考えあわせると、原告の慰藉料額は二六〇万円とするのが相当であると認められる。
四 過失相殺
前記二認定の事実によれば、本件事故の発生については、原告にも前方から対面進行してくる車両の動静を十分注視することなく、その前方を横切つて走行しようとした過失が認められるところ、前記認定の被告の過失の態様、車種の相異等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として原告の損害の三割五分を減ずるのが相当と認められる。
従つて、前記損害額六一六万一五七六円から三割五分を減じて原告の損害額を算出すると四〇〇万五〇二四円となる。
五 損害の填補
請求原因4の事実は、当事者間に争いがない。
従つて、原告の前記損害額から右填補分二二四万円を差引くと、残損害額は一七六万五〇二四円となる。
六 弁護士費用
本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告が被告に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は一八万円とするのが相当であると認められる。
七 結論
よつて、被告は原告に対し、金一九四万五〇二四円、及びこれに対する本件不法行為の日の後の日である昭和六〇年二月二一日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 長谷川誠)